健康診断で歯周病の検査が追加
近年、企業などの会社での健康診断の項目に「歯周病検査」が追加されるケースが増えてきています。
大阪市阿倍野区・西田辺えがしら歯科の歯の豆知識として、「なぜ健康診断で歯周病の検査をするのか」を、できるだけわかりやすく整理してお伝えします。
目次
1.厚生労働省が「歯周病検査つき健診」を後押しする理由
読売新聞などの報道によると、厚生労働省は2026年度から、健康診断で歯周病の検査を実施する企業などを支援する方針を固めたとされています。
通常の職場健診に加えて、歯周病の可能性を調べる唾液検査を行う企業に対し、検査担当者の人件費や結果の分析費用の一部を補助する考えが示されています。
その目的として報道されているのは、次の2つです。
- 歯周病の発症が増え始める「働き盛りの世代」を職場で拾い上げること
- 早い段階で歯科受診・治療につなげること
また、政府の「経済財政運営と改革の基本方針(いわゆる骨太の方針)」では、「生涯を通じた歯科健診(国民皆歯科健診)」に向けた具体的な取り組みを進めることが盛り込まれています。
つまり、
「歯と歯ぐきの健康を、生涯にわたる健康づくりの土台にしよう」
というのが、今の国の大きな流れです。職場健診での歯周病検査は、その重要な一歩と言えます。

2.そもそも歯周病とはどんな病気か
歯周病は、歯茎や歯を支える骨が、細菌によって少しずつ壊されていく病気です。
流れを簡単にまとめると、
- 歯のまわりにプラーク(歯垢=細菌のかたまり)がたまる
- 歯ぐきが赤く腫れ、触ると血が出る(歯肉炎)
- 炎症が深く進むと、歯を支える骨が少しずつ溶けていく(歯周炎)
- 最終的には、歯がグラグラして抜けてしまう
という経過をたどります。初期には痛みがほとんどなく、「気づいたときにはかなり進行している」ことが多いのが特徴です。
歯周病は「歯を失う原因」の第1位であり、日本人成人では多くの人に何らかの症状が見られることから、「国民病のひとつ」とも言われています。
3.歯周病は「お口だけの病気」ではない
近年、歯周病はお口の中だけでなく、全身の病気と深く関わっていることが多くの研究で示されています。
代表的なものを挙げると、
糖尿病
歯周病による慢性的な炎症は、血糖値を下げるホルモン(インスリン)の働きを邪魔し、血糖コントロールを悪くすることが報告されています。
一方で、糖尿病があると免疫力が下がり、歯周病が悪化しやすくなることから、「お互いを悪くし合う関係」として学会のガイドラインにも位置付けられています。
心筋梗塞・脳梗塞などの心血管疾患
歯周病の患者さんでは、冠動脈疾患による死亡や心筋梗塞、脳卒中のリスクが高いことが、大規模な疫学研究で報告されています。
早産・低体重児出産、誤嚥性肺炎など
歯周病による炎症性物質や細菌が血液・気道を通じて全身に広がり、早産・低体重児出産や、高齢者の誤嚥性肺炎などと関連することも示されています。
このように、歯周病を放置すると、「歯を失う」だけでなく、命に関わる病気のリスクにも影響することが明らかになってきています。
そのため、国の方針でも「糖尿病と歯周病との関係など、全身と口腔の健康に関するエビデンス(科学的根拠)の活用」が明記されています。

4.なぜ「職場の健康診断」で歯周病検査をするのか
歯周病は、10代後半〜20代から少しずつ増え始め、30〜50代の「働き盛りの世代」で大きく増加していくことが、厚労省などの調査で示されています。
しかし、この世代は
- 仕事が忙しくて歯科医院に行く時間が取れない
- 痛みがないので「まだ大丈夫」と思ってしまう
といった理由から、実際の歯科受診につながらないケースが課題とされています。
そこで、国は
「すでに多くの方が受けている職場の健康診断に、歯周病の検査を組み込んでしまおう」
と考え、検査を実施する企業への支援を行う方向を打ち出しました。
これにより、
- 忙しい会社員でも、会社でまとめて歯周病のリスクをチェックできる
- 異常があれば、その場で「歯科受診をしてください」と強く伝えやすい
というメリットが生まれます。これは、「国民皆歯科健診」実現に向けた、成人・労働者世代へのアプローチでもあります。

職場で歯周病検査を受けるメリット
では、実際に私たち一人ひとりにとって、どんな良いことがあるのでしょうか。
(1)早期発見・早期治療につながる
歯周病は、初期のうちは自覚症状に乏しい病気です。
健康診断で検査を受けることで、
- 「歯ぐきからの少しの出血」
- 「歯周ポケット(歯と歯ぐきのすき間)のわずかな深さの変化」
といった、小さなサインの段階で気づきやすくなります。
早い段階で歯科治療とセルフケア(歯みがき・歯間清掃)の見直しを行えば、歯を抜かずに済む可能性が高くなり、将来の治療の負担も軽くなります。
(2)全身の病気のリスク管理にも役立つ
すでに糖尿病や心疾患などがある方では、歯周病をきちんと治療・管理することが、その病気のコントロールにも良い影響を与えることが報告されています。
まだ診断されていない方にとっても、
「歯周病の程度が強い方は、全身のリスクも高い可能性がある」
という注意サインとして役立ちます。
(3)仕事のパフォーマンスにも関係する
歯ぐきの腫れや出血、噛むときの違和感は、集中力や食欲にも影響します。
歯周病を安定させることで、
- しっかり噛める
- 食事が楽しめる
- 慢性的な不快感が減る
といった日常の快適さが増し、結果として仕事のパフォーマンスや生活の質の向上にもつながります。

健康診断で行われる歯周病検査の内容
企業や健診機関によって細かな内容は異なりますが、報道や現在行われているモデル事業を見ると、次のような方法が組み合わされることが想定されています。
歯ぐきの状態のチェック(視診)
赤み、腫れ、出血の有無などを確認します。
歯周ポケットの測定
細い器具(プローブ)を使って、歯と歯ぐきのすき間の深さを測る検査です。
唾液を使ったスクリーニング検査
従業員が容器に唾液を垂らし、専用のシートで唾液中の血液成分の混ざり方などを調べ、歯周病のリスクを評価する方法が紹介されています。
こうした検査で「歯周病の可能性が高い」と判定された場合、企業から従業員に、歯科受診を促す仕組みが検討されています。

健診で「要歯科受診」と言われたら
職場の健診結果で「歯周病の疑い」「歯科受診をおすすめします」と記載されていた場合は、できるだけ早めに歯科医院を受診してください。
その後の流れのイメージは、次のようになります。
- 検診票・結果用紙を持参し、歯医者でより詳しい検査(レントゲン、精密な歯周検査など)を受ける
- 病状の説明を受け、歯石取り・歯周ポケット内の清掃など、段階的な治療を行う
- ご自宅での歯みがき方法やケア用品の選び方について、歯科衛生士の指導を受ける
- 病状が落ち着いたら、メインテナンス(定期検診・クリーニング)で状態を維持する
阿倍野区の西田辺えがしら歯科でも、職場健診の結果をお持ちいただいた方には、その内容を拝見したうえで、必要な検査・治療・生活指導を丁寧にご説明しています。
阿倍野区 西田辺えがしら歯科からのメッセージ
当院は「一歯でも多くの歯を守り、患者さんの健康寿命を延ばすこと」を大切に、日々の診療と予防に取り組んでいます。
今回の「健康診断で歯周病検査を行う企業への支援」という国の動きは、「働き盛りの世代の歯周病を早く見つける」「歯と全身の健康の関係を社会全体で共有する」という意味で、とても意義のある取り組みだと感じています。
- 会社の健診で「歯ぐきの検査をします」と案内があった方
- すでに結果が届いていて、どうすればよいか迷っている方
- 痛みはないけれど、歯ぐきからの出血や口臭が気になっている方
こうした方は、どうぞ一度ご相談ください。
現在の状態と治療・予防の選択肢をていねいにご説明し、一緒に「将来の歯」と「健康寿命」を守るお手伝いをいたします。
阿倍野区の西田辺の歯医者 西田辺えがしら歯科
IDIA国際口腔インプラント学会 認定医
日本口腔インプラント学会 専修医
歯科医師 院長 江頭伸行



