虫歯や歯周病は「遺伝する」のか

「親に虫歯が多かったから、子供も虫歯になりやすい?」
「家系的に歯周病になりやすいと言われた」
外来で良く患者さんから、よくいただくご相談です。
結論を先にお伝えすると、虫歯も歯周病も「病気そのもの」が遺伝するわけではありません。
ただし、なりやすさ(感受性)を左右する体質やお口の環境、生活習慣は家族に似やすく、これが発症リスクに影響します。
ここでは遺伝と環境の違いをわかりやすく整理し、年代別に実践しやすい対策まで具体的にお伝えします。
まず整理…遺伝と環境のちがい
遺伝(体質・形質)…歯の質(エナメル質の強さ)、唾液の量や性質、味の感じ方、歯の形や歯並びの生まれ持った特徴など。
環境(行動・習慣)…食べ方・飲み方のリズム、磨き方、フロス習慣、就寝前の補食、喫煙、ストレス、持病のコントロール、家族内での“菌のうつり方” など。
多くの歯の病気は、この遺伝的な土台 × 日々の環境のかけ算で進みます。

目次
虫歯は遺伝する?
答えは「罹りやすさが似る」
虫歯が起こるには、(1)虫歯菌、(2)糖分、(3)時間、(4)歯の質・唾液などの条件がそろいます。
家族間で食習慣が似る、だらだら食べになりやすい、就寝前の飲食が続く——こうした生活の“型”は親子で似やすいため、結果として虫歯が多くなることがあります。
また、唾液の量・緩衝能(酸を中和する力)、エナメル質の強さ、深い溝の多い歯の形などの体質は個人差があり、家族で似ることもあります。
これらは発症のしやすさに関わりますが、虫歯自体が遺伝で勝手にできるわけではありません。
家族内での感染の仕方について
乳幼児期に、保護者とスプーン・箸・コップの共有や、口移しなどで唾液を介して虫歯の原因菌が早期に定着しやすくなることがあります。これは“遺伝”ではなく、生活上の接触による菌の伝播です。
ただし、子育てではスキンシップも大切。過度に恐れるより、仕上げ磨きや甘い飲み物の頻回摂取を避けるなど、できる対策を淡々と続けることが現実的で効果的です。
歯周病は遺伝する?
答えは「感受性に個人差」
歯周病は、歯ぐきや歯を支える骨が炎症で壊れていく病気です。
主な原因は歯周病菌を含むプラーク(細菌のかたまり)ですが、免疫の反応の強さ、炎症が収まりにくい体質、喫煙、糖尿病などの全身状態、ストレス、歯ぎしり・くいしばりなどが進行のスピードを大きく左右します。
このうち免疫応答の傾向や歯並び・骨格的な条件は家族で似ることがあり、結果として “進行しやすいタイプ”が家系に多いように見えることがあります。
とはいえ、ここでも病気そのものが遺伝するわけではありません。
プラークコントロールと生活習慣の見直しで、進行は確実に抑えられます。

年代別・実践しやすい対策
妊娠期・乳幼児期
保護者の口腔ケアを整える…家族のむし歯・歯周病の治療とクリーニングを先に。家庭内の菌量が下がります。
食器の共有を控える…同じスプーン・箸・ストローはなるべく別に。
仕上げ磨き…前歯が生え始めたらガーゼや歯ブラシで毎日。就寝前は必ず。
飲み物の選び方…寝る前の甘い飲料・ジュースの常用は避ける。水やお茶を基本に。
学童・中高生
だらだら食べをやめる…間食は時間と回数を決めて、口の中を休ませる時間を作る。
フッ化物配合歯みがき剤の活用…日本で一般的なフッ化物配合歯磨剤は、エナメル質の再石灰化を助けます(サプリメント形態のフッ化物は国内未承認のため扱いません)。
部活とスポドリ…砂糖入り飲料を“ちびちび”飲むと高リスク。水で口をすすぐ→時間を決めて飲むに変更。
定期検診でシーラント等…溝が深い奥歯は**シーラント(溝のコーティング)**が有効な場合があります。
成人
フロス・歯間ブラシを習慣化…歯と歯の間の清掃は、虫歯・歯周病の両方に効く一石二鳥のケア。
咬み合わせ・歯ぎしり対策…ナイトガードで歯や歯周組織への負担を軽減。
禁煙と全身管理…喫煙は歯周病の最大リスクの一つ。糖尿病は血糖コントロールで歯周治療の効果が上がります。
洗口液の上手な使い方…就寝前など細菌が増えやすいタイミングの利用は補助的に有効です(磨きの代わりにはなりません)。
シニア
残存歯の“根面むし歯”対策…歯ぐきが下がると根の表面が露出し、虫歯になりやすくなります。
やわらかい歯間ブラシと磨く順番の固定で磨き残しを減らしましょう。
お口の乾燥(ドライマウス)…薬の影響や加齢で唾液が減ると虫歯・歯周病が悪化しやすい。
水分補給や唾液腺マッサージ、必要に応じて主治医と薬の相談を。
入れ歯・ブリッジ・インプラントの清掃…装置周りにプラークがたまりやすいので、専用ブラシやフロスを使い分けます。

当院で行うリスク評価(“遺伝的な傾向”も見据えて)
問診・生活習慣のヒアリング…間食のリズム、飲み物、就寝前の習慣、ストレスや喫煙歴などを一緒に整理。
唾液検査…唾液量・酸の中和力などを簡易評価し、あなたに合うケアを設計します。
虫歯・歯周基本検査…染め出し、ポケット測定、出血の有無、動揺度、X線評価で現在地を可視化。
咬合・力の評価…食いしばりのサイン、ナイトガード適合の確認。
個別予防プログラム…歯磨剤の選び方、器具の使い分け、受診間隔(多くの方は3〜4か月ごと)をあなた仕様に。
よくある質問
Q1. 親が虫歯だらけです。子どもも必ず虫歯になりますか?
A. いいえ。“病気そのもの”は遺伝しません。
食習慣・磨き残し・早期の菌定着を防げば、十分にコントロールできます。
Q2. 家族に重度の歯周病が多いです。私はどうすべき?
A. 早めの検査と定期的なメンテナンスが最善です。
喫煙・糖尿病・ストレス管理を含め、生活面も一緒に整えると効果が高まります。
Q3. 遺伝だから何をしても無駄?
A. 無駄ではありません。
体質は変えられなくても、お口の環境と生活習慣は変えられるため、発症や進行は確実に遅らせられます。
Q4. 子どもへの“菌うつし”が心配でスキンシップが怖いです。
A. 行き過ぎた制限は不要です。
食器の共有を控える・仕上げ磨きを続ける・砂糖飲料を控えるといった現実的な対策で十分です。

まとめ
虫歯も歯周病も、病気そのものが遺伝で決まるわけではありません。
家族で感受性や生活の型が似ることで、“なりやすさ”が似て見えるのが実際です。
早めの評価と個別化した日常ケア、そして定期的なプロケアで、結果は大きく変えられます。
気になることがあれば、お一人おひとりの体質・生活に合わせて予防計画を立てます。どうぞ大阪市阿倍野区の西田辺えがしら歯科へご相談ください。
阿倍野区の西田辺の歯医者 西田辺えがしら歯科
IDIA国際口腔インプラント学会 認定医
日本口腔インプラント学会 専修医
歯科医師 院長 江頭伸行
関連記事


