歯周病と高脂血症

「コレステロールが高いと言われた」「中性脂肪の数字が気になる」。
健康診断や人間ドックの結果を見て、こうした不安をお持ちの方は多いと思います。
一方で、歯科では「歯茎から血が出る」「歯がグラグラする」といった歯周病の相談が増えています。
いま、この歯周病と高脂血症(脂質異常症)が関係していることが、多くの研究で報告されています。
お口の病気と血液検査の数字が、実は同じ「生活習慣病」というグループでつながっている、という考え方です。
この記事では、難しい専門用語をできるだけ避けながら、
- 高脂血症とはどんな病気か
- 歯周病とは何か
- なぜこの二つが関連すると考えられているのか
- 毎日の生活や歯科通院で、どのように予防していけばよいか
を、順を追ってご説明します。
目次
高脂血症(脂質異常症)とは
高脂血症とは、血液中の脂質のバランスが崩れた状態を指します。
健康診断の結果でよく見かける「LDLコレステロール」「HDLコレステロール」「中性脂肪」などが、その代表的な項目です。
一般に、LDLコレステロールは「悪玉」、HDLコレステロールは「善玉」と呼ばれます。
LDLが高すぎたり、HDLが低すぎたり、中性脂肪が多すぎる状態が長く続くと、血管の内側に脂肪がたまり、動脈硬化が進みやすくなります。
動脈硬化が進行すると、心筋梗塞や脳梗塞など、命に関わる病気のリスクが高くなることが知られています。
やっかいなのは、高脂血症そのものに自覚症状がほとんどないことです。
普段の生活では痛みもなく、体調も大きく変わらないため、「少し数値が高いだけだから」と放置されがちです。
しかし、静かに少しずつ血管を傷つけていくため、「サイレントキラー(静かな殺し屋)」とも呼ばれます。
原因としては、食べ過ぎ・運動不足・お酒・喫煙などの生活習慣に加え、体質や家族歴、糖尿病などの他の病気が関係していることが多いとされています。
つまり、高脂血症は「年齢のせい」だけではなく、日々の暮らし方と深く結びついている病気です。

歯周病とはどんな病気か
歯周病は、歯そのものではなく、歯を支えている周りの組織が壊れていく病気です。
歯茎(歯肉)や、その内側の骨(歯槽骨)に炎症が起こり、少しずつ溶けていくことで、最終的には歯が抜けてしまいます。
始まりは、歯と歯茎の境目にたまる歯垢(プラーク)です。
歯垢の中には多くの細菌が住みついており、その毒素に対して体が反応し、炎症が起きます。
初期には歯肉炎とよばれ、歯茎が赤く腫れたり、歯みがきのときに血が出たりします。
この段階では、まだ歯を支える骨はあまり失われていません。
しかし、炎症が続くと、歯茎の溝が深くなり「歯周ポケット」ができます。こ
のポケットの中で細菌が増え、炎症が深いところまで広がると、歯槽骨が少しずつ溶けていきます。
これが歯周炎です。
進行すると、歯がグラグラ動くようになり、かむ力に耐えられなくなって抜歯が必要になることもあります。
歯周病の厄介な点は、進行しても痛みがあまり強くないことです。虫歯のように「急にズキズキする」ということが少ないため、自覚がないまま何年も経過してしまうことがあります。
「気づいたときには骨がかなり減っていた」という方も珍しくありません。

歯周病と高脂血症はなぜ関係するのか
一見、歯茎の病気と血液中の脂肪は別々のものに思えます。しかし、ここ10〜20年ほどで、両者の関係を調べた研究が世界中から発表されるようになりました。
多くの調査では、歯周病がある人ほど、LDLコレステロールや中性脂肪が高く、HDLコレステロールが低い傾向があることが報告されています。
反対に、高脂血症やメタボリックシンドロームを持つ人では、歯周病にかかっている率が高い、あるいは重症になりやすいという結果も示されています。
その理由として、いくつかのメカニズムが考えられていますが、ここでは中学生でもイメージしやすいように、できるだけかみ砕いて説明します。
まず、歯周病があると、歯茎の中で炎症が続き、細菌や細菌の毒素、その毒素と戦うために体が出す炎症物質が、少しずつ血液の中に入ります。
これにより、体全体が「軽い炎症状態」のようになり、肝臓での脂質の処理や、血管の内側の環境に影響が出ると考えられています。
その結果、善玉コレステロールが減ったり、中性脂肪や悪玉コレステロールが増えやすくなる可能性があると報告されています。
一方で、高脂血症があると、全身の血管の内側に脂肪がたまりやすくなり、血流が悪くなります。
歯茎の中にも細い血管がたくさん走っているため、血流が悪くなると、免疫細胞がうまく働きにくくなり、細菌と戦う力が弱まります。その結果、歯周病の炎症が強く出たり、治りにくくなったりすると考えられています。
さらに、高脂血症・高血圧・糖尿病・肥満などが重なった「メタボリックシンドローム」の人では、体全体の炎症状態が高まり、歯周病を悪化させる方向に働くことも報告されています。
このように、歯周病と高脂血症は、どちらか一方が原因、もう一方が結果という単純な関係ではなく、お互いが影響し合いながら、動脈硬化や心血管疾患のリスクに関わっていると考えられています。
なお、現時点で「歯周病を治療すればすべての高脂血症が治る」「高脂血症を治療すれば必ず歯周病が治る」といった言い方はできません。
ただし、歯周病治療のあとに、中性脂肪や総コレステロール、HDLコレステロールなどの値が改善したという研究結果もあり、両者の関連が注目されています。

放置した場合に起こりうる悪循環
歯周病も高脂血症も、それぞれ単独で問題の多い病気ですが、両方があると悪循環に陥りやすくなります。
まず、歯周病が進行すると、しっかりかむことが難しくなります。痛みや違和感のために、やわらかいものや、噛まなくても食べやすい麺類・パン・お菓子などに食事が偏りやすくなります。
そうすると、脂質や糖質が多く、食物繊維が少ない食事になりがちで、高脂血症や血糖値の悪化につながる恐れがあります。
一方で、高脂血症や糖尿病などの代謝異常があると、全身の血管や免疫の働きが低下し、歯周病が悪化しやすくなります。その結果、さらに噛めなくなり、食生活が乱れるという、負のスパイラルが生じてしまいます。
このような悪循環を断ち切るためには、「どちらか一方」だけに目を向けるのではなく、お口の健康と全身の健康をセットで考える視点が大切です。
毎日の生活で意識したいこと
ここからは、日常生活の中で意識していただきたいポイントを、少しだけ整理します。
まず、お口の面では、歯ブラシだけでなく歯間ブラシやデンタルフロスを上手に使い、歯と歯の間、歯と歯茎の境目をていねいに清掃することが重要です。
自己流でがんばりすぎると、力の入れ方や当て方を間違えて、かえって歯茎を傷つけてしまうこともあるため、歯科医院で一度、「自分に合った磨き方」の指導を受けてみるとよいでしょう。
また、定期的な歯科検診を受け、歯周ポケットの深さや出血の有無、レントゲンで骨の状態をチェックすることも欠かせません。
見た目にはあまり変化がなくても、骨が静かに減っていることがあるため、専門的な検査が大切です。
歯科医院でのクリーニングでは、家庭の歯みがきでは取りきれない歯石やバイオフィルムを除去し、歯周病菌のすみかを減らしていきます。
生活習慣の面では、脂っこい料理・甘い飲み物やお菓子のとり過ぎを控え、野菜・海藻・魚などを意識してとることが、高脂血症の予防だけでなく、お口の健康にも良い影響を与えます。
よくかんで食べることで満腹感が得られやすくなり、食べ過ぎ防止にもつながります。
喫煙は、歯周病の最大の危険因子のひとつであり、同時に動脈硬化を強く進める原因にもなります。禁煙は簡単ではありませんが、「本数を減らすこと」からでも一歩を踏み出してみる価値は十分にあります。

阿倍野区の西田辺えがしら歯科で大切にしていること
阿倍野区の西田辺えがしら歯科では、歯周病を「歯茎だけの病気」とは考えていません。
血液検査の結果や、内科・循環器内科での治療歴、服用中のお薬なども伺いながら、お口だけでなく全身の状態も踏まえて診療を行うよう心がけています。
高脂血症や糖尿病などで通院中の方には、主治医の先生の方針を尊重しつつ、歯周病治療やメインテナンスの必要性をわかりやすくお伝えし、無理のない通院計画をご提案しています。
必要に応じて、内科の先生と情報を共有しながら、患者さんの負担が少なく、かつ効果的な治療が進められるよう配慮しています。
まとめ
歯周病と高脂血症は、どちらも自覚症状が少なく、知らない間に進行してしまうことが多い病気です。別々の病気のように見えますが、実際には、体の中の「炎症」や「動脈硬化」を通じてつながっており、お互いに影響し合っていることが多くの研究から示されています。
歯科の立場からできることは、歯周病を早期に見つけ、適切な治療とメインテナンスで炎症を抑え、お口の中の細菌バランスを整えることです。それは同時に、全身の負担を少しでも軽くし、高脂血症や心血管疾患のリスクを下げる一助にもなり得ます。
健康診断でコレステロールや中性脂肪の数字が気になった方、最近歯茎からの出血や口臭が気になってきた方は、ぜひ一度、歯周病の検査と相談にいらしてください。
お口と全身をトータルに考えながら、患者さん一人ひとりに合った予防と治療の方法を、一緒に考えていければと思います。
阿倍野区の西田辺の歯医者 西田辺えがしら歯科
IDIA国際口腔インプラント学会 認定医
日本口腔インプラント学会 専修医
歯科医師 院長 江頭伸行


