歯性上顎洞炎と副鼻腔炎(蓄膿症)
副鼻腔炎は鼻の奥やその周囲にある空洞が炎症を起こし膿がたまる疾患で、長引く鼻症状(鼻水・鼻づまり)や頭痛、頭重などが主な症状としてあらわれます。
風邪やアレルギーによる鼻炎が引き金になって発症することが多く、耳鼻科疾患の代表的な病気の1つといえるでしょう。
一見すると歯科領域とは無縁にも思える副鼻腔炎(蓄膿症)ですが、実は虫歯や歯周病などの歯科疾患が原因となって発症する場合があります。
今回は副鼻腔炎と歯科疾患、この両者にどのような関連があるのかご紹介したいと思います。
副鼻腔炎とは鼻の副鼻腔と言う場所に炎症が起きる病気です。
鼻には鼻腔の他に副鼻腔とは前頭洞、篩骨洞、上顎洞、蝶形骨洞の4つもの空洞があります。
昔は副鼻腔に膿が貯まる副鼻腔炎を蓄膿症と呼んでいました。
膿が貯まるほどひどくない副鼻腔炎もあります。
目次
1. 副鼻腔炎とは
副鼻腔炎の正式な医学病名は「副鼻腔炎(ふくびくうえん)」です。特に慢性化した副鼻腔炎の俗称として副鼻腔炎という言葉が使われています。
副鼻腔の炎症が長引くと副鼻腔炎を発症します。
私たちの頭部には
・前頭洞(ぜんとうどう)
・篩骨洞(しこつどう)
・上顎洞(じょうがくどう)
・蝶形骨洞(ちょうけいこつどう)
と呼ばれる4つの空洞が存在し、すべての空洞をあわせると実に顔面の2/3を占める大きさになるといわれています。
この4つの空洞の総称が「副鼻腔」です。
副鼻腔があることで人類は頭部を軽量化し、二足歩行が可能となっています。
また副鼻腔の空洞は外部からの衝撃を和らげて脳へのダメージを小さくするクッション的な役割や、声を共鳴させて美しく響かせる役割なども担っています。
副鼻腔炎の原因は、この副鼻腔に細菌、真菌(カビ)、ウイルス、アレルギー性鼻炎(ハウスダストやダニ、花粉などが原因です)が入り込み、炎症を起こすのが副鼻腔炎です。
すべての副鼻腔は鼻腔とつながっており、風邪や花粉症、アレルギーによる鼻炎症状が長引くと、その炎症が副鼻腔にまで波及してします。
そしてその炎症がさらに慢性化すると副鼻腔に膿がたまり、副鼻腔炎とよばれる状態へと移行するわけです。
2. 歯科疾患と副鼻腔炎との関係
4つある副鼻腔のうち、特に副鼻腔炎を起こしやすいのが上顎洞(じょうがくどう)です。
上顎洞は鼻の両側に存在し、上顎の歯にも近い場所に位置しています。
特に上の第二小臼歯(前から5番目の歯)を含む奥の3本の臼歯の歯根と近接しており、中には根っこの先が上顎洞の底と接触しているものもあります。
そのため奥歯の虫歯を放置したり歯周病が悪化して重度になると、その炎症が上顎洞にまで波及し上顎洞炎を発症してしまいます。
このように鼻ではなく、歯が原因でおこる上顎洞炎(副鼻腔炎)を歯性上顎洞炎(しせいじょうがくどうえん)と呼んでいます。
3. 歯性上顎洞炎の症状
歯性上顎洞炎は一般的な副鼻腔炎と同様に、鼻づまりや鼻水(ドロッとした黄色の鼻水)、頬や目の周りの痛みや違和感などが症状としてあらわれます。
また、頭をゆったり、うつむいたり、階段を下りる時や自転車を降りる時の衝撃で「ズキン」と痛むことがあります。
4. 歯性上顎洞炎の診断
鼻が原因で起こる上顎洞炎は左右両側に発症することが多いのに対し、歯が原因でおこる歯性上顎洞炎は片側にしか発症しないのが一般的です。
上記の症状が右か左のどちらかにしかあらわれない場合は歯性上顎洞炎の可能性が高いでしょう。
また、歯性上顎洞炎は、歯科医院で撮影したパノラマレントゲンから偶然発見されるケースもあります。
歯科医院での診断は、パノラマ・レントゲン検査を行い、症状を訴える周囲の歯を視診、触診、打診を行ます。
そして、上顎洞の底部辺りの上顎骨を触診し「押して痛くないか?」「押してきて左右差はあるのか?」などを調べます。
そして、可能性が高ければCT撮影による画像診断を行います。
総合的な結果、歯が起因する歯性上顎洞炎かどうかを見極めます。
5. 歯性上顎洞炎の治療
歯性上顎洞炎も一般的な副鼻腔炎と同じく、まずは抗生物質や炎症を抑える薬を投与して症状を抑えていきます。
抗生物質の投与期間は2~4週間です。
ただ歯性上顎洞炎の場合は、原因となる歯科疾患を治療しなければ完治させることができません。
そのため鼻と歯、双方の治療を同時に行う必要があります。
たとえば、抗生物質の投薬を受けながら、虫歯治療を行い歯の根の消毒を行ったり、歯周病の治療おこなったり、抜歯処置を行います。
上顎洞の炎症が広範囲や膿の量が多いようであれば、抗生物質の投与が終わった後に、抜歯を行い抜いた穴から穿刺で膿を吸引(吸い出す)する手術を行います。
6. 歯性上顎洞炎の原因
歯性上顎洞炎は歯が原因で起こる上顎洞炎で、上顎洞炎全体の1~2割を占めるといわれています。
歯性上顎洞炎の原因は上記にある虫歯や歯周病のほかに、抜歯によってお口の中と上顎洞がつながってしまい、そこから細菌感染を引き起こすケースがあります。
また根管治療(歯の神経の治療)の際の不適切な操作や、抜歯中に誤って歯を上顎洞内に埋入させてしまうことも原因となります。
そのため上顎洞と歯が近接しているケースでは、歯科医師も細心の注意を払いながら処置をおこなわなければなりません。
さらに近年はインプラント治療が原因となる上顎洞炎も増えています。
先にも述べたように上の歯は上顎洞と密接しており、奥に行くほど骨の厚みも薄くなります。
このような状態でインプラント治療を行なってしまうと上顎洞を手術器具で傷つけてしまうほか、インプラント自体が上顎洞内に埋入してしまう恐れがあります。
そのため上の奥歯のインプラント治療ではレントゲンや歯科用CTなどによる事前診査を慎重に行い、場合によってはサイナースリフトなどの骨造成手術も検討することが必要です。
7. 歯性上顎洞炎かな?と感じたら
耳鼻科では副鼻腔炎は抗生物質(薬)による治療が第一選択されることが多いようです。
抗生物質の投薬を受けることにより、副鼻腔内の細菌が死滅し治癒します。
しかし歯から感染を起こしている歯性上顎洞炎の場合は、歯を治療しない限り、歯やお口の中から再び細菌が入り感染してしまうので治癒することはありません。
しばらくすると同じような症状が再発します。
副鼻腔内は直接、見ることができませんので診断は難しく、また耳鼻科では歯との関係の診断は難しく、原因がわからず難治性の副鼻腔炎(蓄膿)となってしまう場合もあります。
もし耳鼻科医院での治療後も完治せず症状が続いた場合、歯の調子も悪く、左右どちらかだけ痛みが出る場合は、歯科の受診も考えてみてください。
歯科用CTの設備がある歯科医院なら、確実に検査することが可能です。
阿倍野区 西田辺えがしら歯科 院長
IDIA国際口腔インプラント学会 認定医
日本口腔インプラント学会 専修医
歯科医師 院長 江頭伸行